1. 大回転 (1/3)
「あのゼッケン二十八番の選手、すごいスピードだね。」
「世界的に有名な西ドイツのクライン選手だもの。」
「飛ばす、飛ばす、あの勢いで全部の関門が回れるかなあ」。
「三十八、三十九、四十……すごいぞ。あと一つだ。ゴールへ突っ込んでくる。」
時計は一分四十八秒七一を指している。
「兄ちゃん、ぼくたちも早くあんなになりたいなあ」
「なれるさ、練習だよ。」
六年生の雄二は興奮してテレビの画面を食い入るようにみつめていた。
画面には全長一六六二メートル、旗門七一、北海道ピヤシリスキー場からの世界選手権大会・大回転のようすが映し出されている。
ゼッケン番号と名前がアナウンスされ、次々と各国の選手が雪煙をあげてすべりおりてくる。
バランスをくずしてたおれる者もあれば、関門の旗にスキーを引っかけて失敗する選手もあった。
「いいタイムなのに、おしいな。」
「うん、おしい、でもこれが一発勝負のきびしさなんだよ」
「運がなかったんだね」。
「たしかに運がなかったと言える。でも雄二、勝負は運にたよってはいけないよ。
練習で運をこっちに呼ぶんだ。」
「でも兄ちゃん、みんな国内の予選を勝ちぬいてきた選手だろう。
練習だって、ほかの人の倍も倍もやっているよ。」
「たしかにやっているだろう。
でもな、ここではその選びぬかれた人たちの集まりだ。
その中で勝つのは、なみたいていのことじゃあできないよ。
勝負は、百分の何秒かの差できまるんだ。
少しでもいいタイムを出そうとすれば、それだけ無理をすることになる。
「………」
「その無理に耐えられるのは、練習より他にはないんだよ」
「わかったよ、兄ちゃん。ぼくたちも、今日からもう練習しよう。」
「うん、やろうな。そうして二人でこの町を代表する選手になるんだ」
兄ちゃんは今年中学三年生だ。
去年二年のとき町の中学生大会で優勝している。
「兄ちゃんと二人で出られたら母さんたち喜ぶだろうな。」
「それには一にも練習、二にも練習だ。
運がなくて勝てないことはあっても、力がなくフロックで勝てるようなことはぜったいにないんだよ。
ほら雄二、今度の選手のつっこみを、よく見ていろ。あれが、現在三位のフランスのミッチェルだ。
一、二位との差は一秒とないんだ。きっと二本目は勝負をかけて飛ばすぞ。」
ミッチェル選手がスタートした。
初めから、もうれつなスピードで飛ばしてくる。
エッジを利かして、右に左に回りこみ、反転するたびに、パーッと雪煙りがあがる。
「三十、三十一、三十二、速いぞ。逆転だ。」
兄ちゃんが、こぶしをにぎりしめる。
「あ! あ! あ!」
雄二が机をたたいてさけぶ。
難関の六五本目の旗をひっかけて転とうし、そのまま二十メートルばかりしゃ面を転げ落ちていく
「おしい、あの調子なら逆転優勝なのに!」
「外国の選手だから、コースになれていないせいかも知れないね」。
「うん、コースをよく知っておくことは大事だよ。さあ雄二、ぼくたちも少し練習してこよう。」