朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
 
続、高市人気 2026.3エッセイ・リストback|next

自民党、衆院選挙で大勝 ※画像をクリックで拡大
 前回、「高市人気(承前)」としたのは間違い。前回は「正篇」で今回こそ「続篇」である。
 さて、souffler le chaud et le froid「熱と冷気を吹く」という謎めいた表現の意味を明らかにすることから再開しよう。これはLaFontaine以前にフランス語の中にすでに存在したようだが、ラルースの仏語大辞典はこう説明する。
 Adopter tour à tour un point de vue puis un point de vue contraire, selon les circonstances pour convaincre les uns et les autres ou pour attiser les querelles
 「双方を納得させるため、または喧嘩の火に油をそそぐために、状況に応じて、ある見解を示したあと、正反対の見解を採用する」
 同辞典は例文として問題のラ・フォンテーヌの寓話を引いているのだが、これに従えば、サチュロスが憤慨して「旅人を追い出した」理由がよく分かる。その点を納得した上で、今のフランス語ではどんな使われ方をしているのか、ネットで調べたところ、大まかに2タイプをあげることができそうだ。
 一つは人間関係に関わる。Académie Français Authentiqueから用例をあげる。
 Je ne sais pas où j’en suis avec Aurélien . Un jour , il est affectueux ; le lendemain il m‘ignore complètement. Il me souffle le chaud et le froid.
 「オーレリアンとの仲がどうなっているのか、分からくなっちゃったわ。優しくしてくれたかと思うと、次の日には知らん顔するのよ。私にたいして二枚舌を使っているわ」
 もう一つは政治家の言動に関わる。
 Le gouvernement doit clarifier une fois pour toutes sa position sur l’âge légal de départ à la retraite et cesser de souffler le chaud et le froid sur le sujet. — (Le Monde, le 23 mars 2019)
 「政府は老齢年金支給の開始年齢について今度こそ明言して、この件に関する態度をあいまいにするのをやめるべきである」
 高市首相の場合は後者に準ずると思われるが、次の記事を参照すると、論点がはっきりする。フィガロ紙(2月26日)のJapon :les largesses de Takaichi inquiète les milieux d’affaires
 「日本:高市の放漫政策、財界を不安に陥れる」はこう書き出されている。

 « Allez-vous baisser ou non lataxe à la consommation sur les produits alimentaires ? »Passée au gril par l’opposition à la Diète mardi, Snae Takaichi a préféré botter en touche à propos de ette coûteuse promesse de campagne.
 和訳の前に語釈を少々。というのも、筆者Régie Arnaudは東京に住むジャーナリスト、作家で、フィガロ紙にしきりに寄稿している日本通だが、辞書に載っていない成句を好んで使う。この短い引用文にも二つ見つかる。以下に、ネットで見つけた説明を披露する。

レジー・アルノ ※画像をクリックで拡大
 ◆passer au gril:英語のto grillの本義は「グリルで焼く」だが、比喩的な使い方があり、「[口語](警察などが)(人を)厳しく尋問する」と説明される。この仏語はそれがフランス語に転化したもので、questionner avec consistance「がちがちと(ねちねちと)質問する」とある。
 ◆botter en touche :これも英語に由来するものと思われるが、to kick in ttouch「(サッカーで)タッチに蹴りだす」に相当する。これが比喩的にto avoid a question「質問をかわす」の意になる。
 周り道をしたが、和訳を示す。
 「<食料品に関する消費税を下げるのですか、下げないのですか?>高市早苗は、火曜日、国会で野党の執拗な質問を受けたが、財政に負担のかかる選挙公約を巧妙にかわす道を選んだ」
 そもそも「消費税減税」がなぜ争点になったのか?これはもともと昨年秋からの野党の提案で、その際は首相の立場から、社会保障制度の財源としての消費税を軽減することに反対を唱えた。それなのに、いざ選挙という段階になると、物価高対策の目玉の必要を痛感した彼女は、「消費税減税」こそこれにふさわしいと即断し、選挙公約に掲げた。ところが、当選して、絶対多数を持つ政権の座についたとたん、財源問題を無視できないことを再確認して、公約の実現に消極的にならざるをえなくなった。アルノーは、国際的にも「消費税軽減」に異論がでたことに触れている。
 ... , le Fonds monétaire international s’est joint au chœur des pleureuses en exhortant Sanae Takaichi à ne pas réduire cette taxe.
 ここでも語釈がいる。chœur des plureuses「泣き女の合唱団」とは何か?高市首相の謳い文句
 「責任ある積極財政」politique proactive et responsableをÇa ne veut rin dire「何の意味もない」として、grandes institutions finanacières「大金融組織」は選挙期間中からきびしく批判していた,とある。その文脈の延長上にこの文章が出てくる以上、「泣き女」は「金融機関」(女性名詞)としか考えられない。
 「国際通貨基金は大金融機関から一斉に上がった批判の声に合わせて、高市早苗に消費税減税をしないように勧告した」
 首相の国会答弁が煮え切らないものになった背景は簡単には説明しきれない。それは当然だが、すくなくともはっきtりしているのは、彼女が「同じ口で熱と冷気を吹いた」ことである。イソップは書いている。「我々も、性格のはっきりしない人との友情は避けなければならぬのだ」(岩波文庫『イソップ寓話集』中務哲郎訳)


追記  200回を超える既往のコラムの一部を選んで、紙媒体の冊子を作りました。題して「ア・プロポ――ふらんす語教師のクロニクル」。Amazon, 楽天ブックス三省堂書店(WEB)などオンラインショップで販売中です。
 
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