朝比奈 誼先生のフランス語にまつわる素敵なお話




セ・サンパ
感じいい!親切!ちょっと贅沢!「セ・サンパ」とパリジャンは表現します。そんなサンパなパリを、ほぼ毎週更新でご紹介しています。
 
クマと人間 (承前) 2025.12エッセイ・リストback|next

「クマと庭好きの男」Oudryの挿絵(1783年) ※画像をクリックで拡大
 孤独なクマにつづいて、ラ・フォンテーヌは、道楽として野菜や果物つくりにいそしむ老人を登場させるのだが、これまた一人暮らしに飽きあきしていた。それが高じて、ある日、仲間を求めて野原にさまよい出て、おなじく里に出てきたクマと鉢合わせした。
 クマと人間との鉢合わせといえば、現代日本では恐怖の種でしかないが、寓話「クマと庭好きな男」では、両者が意図した探索がそれをいわば呼び寄せたことになる。でも、鉢合わせには違いない。
L’homme eut peur : mais comment esquiver ? et que faire ?
Se tirer en Gascon d’une semblable affaire
Est le mieux : il sut donc dissimuler sa peur.


「男は恐怖に襲われたが、どうやってよけるか、迷った。
こんな場合はガスコーニュ流で切り抜けるのが
いちばんいい。それで恐怖を表に出さぬようにした。」

 ガスコーニュはフランス南西部の地方。Alexandre Dumasの小説Les Trois Mousquetaires『三銃士』のd’Aartanien、Edmond Rostandの 戯曲Cyrano de Bergerac『シラノ・ド・ベルジュラック』の主人公はこの地方人気質の代弁者だ。ただ、ラ・フォンテーヌの寓話では「ほら吹きで、とかく大言壮語に走り勝ちな連中」(「江戸っ子」に近いか?)とされている。因みに、日本の「クマ対策」でも、クマに遭遇したら、なるべく平然として、頭をかかえ、地面に伏せるように勧めている。

  L’Ours, très mauvais complimenteur,
Lui dit : Viens-t’en me voir. L’autre reprit : Seigneur,
Vous voyez mon logis ; si vous me vouliez faire
Tant d’honneur que d’y prendre un champêtre repas,
J’ai des fruits, j’ai du lait : ce n’est peut-être pas
De nos seigneurs les ours le manger ordinaire ;
Mais j’offre ce que j’ai. L’ours l’accepte ; et d’aller.
Les voilà bons amis avant que d’arriver :
Arrivés, les voilà se trouvant bien ensemble ;

  「クマはお愛想をいうのが大の苦手、
男に言った、<おいらのとこへ、会いに来いや>。相手はそれを受けて言った、<旦那、
あそこに見えるのが我が家。わたしにとって何よりの光栄です、
旦那があそこで田舎料理を召し上がってくれるなら。
うちには果物があります、牛乳もあります。それはたぶん
クマの旦那方のいつもの召しあがり物ではないでしょう。
でも、持っているものを何でもさし上げます>クマはそれを受け入れ、すぐ出向いた。
両者は着く前に仲良しになっていた。
着くと、いっしょにいるのが嬉しかった、」

 作者はこの成り行きに不満で、Beaucoup mieux seul avec des sots「馬鹿と一緒に暮らすくらいなら、一人暮らしの方がずっとまし」と茶々をいれるのだが、一方は庭いじり、他方は猟、老人が居眠りすると、ハエがたからぬようにクマが番をして、おたがい仲良く暮らす日々がつづいた

Un jour que le vieillard dormait d’un profond somme,
Sur le bout de son nez une allant se placer
Mit l’Ours au désespoir ; il eut beau la chasser.
Je t’attraperai bien, dit-il ; et voici comme.
Aussitôt fait que dit : le fidèle émoucheur
Vous empoigne un pavé, le lance avec roideur,
Casse la tête à l’Homme en écrasant la mouche ;
Et, non moins bon archer que mauvais raisonneur,
Roide mort étendu sur la place il le couche,

「ある日、老人がぐっすり眠り込んでいる時、
一匹がその鼻の頭にとまって、
クマを絶望させた。いくら追い払っても駄目。
<きっと捕まえてみせるぞ>と彼は言った。<これが答えだ>
言うと同時に実行した。忠実な追い払い屋は
敷石をひとつ掴むと、力まかせに投げつけ、
ハエをつぶすと同時に、老人の頭を砕いてしまった。
推論が苦手なぶん、優れた投げ手なので、
クマは一撃でぶち殺し、相手をその場に転がしたのだった。」


George W. Bush元大統領 ※画像をクリックで拡大
 ラ・フォンテーヌは前記の「茶々」の延長として、「無知な友人ほど危険なものはない、分別のある敵の方がまだましだろう」という「教訓」で寓話を終わらせる。でも、この寓話をそれで終わらせるのは勿体ない。というのも、私には現代の「戦争」についての「教訓」が含まれていると思えるからだ。
 Nouvel Obs誌(2024年12月20日)は20年前のイラク戦争を振り返って、こう書いた。  Déclenchée sous un faux prétexte, l’invasion de l’Irak par les Américains était censée apporter la démocratie au Moyen-Orient. Elle a engendré la guerre civile entre chiites et sunnites, fait naître l’Etat islamique, et discrédité les Occidentaux dans la région.
 「間違った口実のもとに始められた米軍によるイラク侵攻は中東に民主主義をもたらすものと見なされていた。ところが、これが生み出したのはシーア派、スンニ派間の内戦であり、イスラム国の誕生であり、中東地域での西欧の信用失墜であった」
 時のブッシュ大統領はハエ(フセイン体制)を一掃するつもりで、中東の秩序を粉砕してしまったのではないか。それがウクライナ侵攻の呼び水になったのではないか。「寓話」の意味は奥深い。



追記  200回を超える既往のコラムの一部を選んで、紙媒体の冊子を作りました。題して「ア・プロポ――ふらんす語教師のクロニクル」。Amazon, 楽天ブックス三省堂書店(WEB)などオンラインショップで販売中です。
 
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Yusuke HAKOYAMA
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